「機能がなければ作ればいいじゃない」エンジニア・前田周輝氏が感じたグローバルとの差

リクルートライフスタイルではたくさんのエンジニアが働いています。
サービスを技術面から支えるエンジニアには、常に最先端の技術を学んで欲しいという思いから、リクルートライフスタイルでは海外での研修やカンファレンス参加の機会を多数設けているそうです。

エンジニアが海外研修に行くという取り組みはどういった成果を上げているのでしょうか。

昨年3回の海外研修と出張を経験された、リクルートライフスタイルのサービス基盤チームとアナリティクスチームに所属する前田周輝さんに、海外で目の当たりにした技術の最先端と、そこで得たものについて聞きました。

聞き手/構成:山田井ユウキ 編集/写真:小川楓太(NEWPEACE Inc.)

シリコンバレーの大企業とベンチャー

—— 前田さんは昨年、海外研修を3回経験されたそうですね。どのような経緯で行くことになったのかを教えていただけますか。

前田 一度目は、社内で表彰されたことで行けることになりました。リクルートライフスタイルでは業務内容に応じて社員が表彰される制度があり、私は昨年、VP賞を獲得できたのです。
表彰されると、好きな国を選んでコーディネーター付きで研修に行くことができます。いわばご褒美ですね(笑)。複数人で同じ国に行って、現地で別行動しても構いません。私は米国を選びました。やはり技術の最先端を学べるのは米国だからです。

—— 米国のどの都市に行かれたんですか?

前田 まずはサンディエゴです。そこでデジタルマーケティングのエージェンシーを訪問し、米国のコンサルティング事例について5時間ほどみっちり話をしました。それからサンフランシスコとシリコンバレーに移動して、リクルートライフスタイルと同じようなユーザー企業を訪問したのです。シリコンバレーはご存知の通り、有力なスタートアップ企業がたくさんあります。そこでスタートアップの雰囲気に触れるのが一番の目的でした。

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—— 訪れた企業は?

前田 我々とよく似たオンライン予約サービスのA社と決済系で急成長しているB社です。そこで働くスタッフとランチを一緒に食べて、いろいろな話をしてきました。それぞれ雰囲気がまったく違う企業で、非常にいい刺激を受けることができました。
A社は旅行関係のオンライン予約を扱うサービスで、リクルートライフスタイルのサービスとは競合にあたります。壁一面に設計図が貼ってあったり、ドローンが無造作に置いてあったりと、自由な雰囲気が漂うオフィスでしたね。その一方で、開発を統括するプロダクトマネージャーはスーツをビシっと着こなしていました。これは別に私に会うためにスーツを着たのではなく、A社はマネジメントと開発がはっきり分かれている企業なのだそうです。

—— 開発はラフな格好だけど、マネージャー職になるとスーツになると。

前田 開発とマネジメントが分かれているのは、ビジネスやマーケットの成熟度が関係しているように思います。成長する過程で組織改編や人材の入れ替わりなども経験し今の形になったんだと思います。
プロダクトマネージャーの方とミーティングしたのですが、彼はデザイナーもエンジニアも統括する立場にいて、強い権限を持っていました。「エンジニア、デザイナー、サイエンティストと協働するが、最後に決めるのは自分だ」というわけです。ですから、答えづらい質問に対してもポンポンと断言口調の言葉が帰ってきて、迷いがないように感じました。

—— A社とリクルートライフスタイルのサービスは、よく似ていますよね。どんなお話をされたんですか?

前田 業務内容のことをギリギリまで踏み込んで質問しましたね。たとえばメールマーケティングはユーザーに敬遠される場合も多いので、ユーザ体験を損なわないよう注意しているそうです。どんな内容で、どんな頻度で、どうA/Bテストをして……とがんばって聞くのですが、当然ながら個別の手法までは聞くことができませんでした。通訳を通すと相手も冷静になってしまうので、勢いで聞くことができないんですよね(笑)。
ただ、データサイエンスに関する話はかなり参考になりましたね。たとえば旅行者が次にどこに行きたいかを分析する場合、データサイエンスの手法だと、そのユーザーが過去に行った場所のデータなどから予測するわけです。でも、彼らは、ある手法に固執せず、たとえばホテルのユーザーレビューのついでに「次はどこに行きたいですか」とユーザに直接聞くような手段もとっているそうです。たしかに、その方が正確ですよね。シンプルなアプローチです。
どうしてもデータサイエンスやビッグデータに取り組み始めると、データ偏重で分析手法などにこだわりが強くなりがちです。ビジネスの目的に対して「シンプルなアプローチで最良の結果を得る」という彼らの迷い無いスタンスに学ぶことが多かったです。

—— データサイエンスやビッグデータ活用などは、日本でもトレンドですが、米国ではすでにそのもうひとつ先を行っている感じがしますね。一方の決済系B社はいかがでしたか?

前田 先ほどのA社とはまったく違っていて、いわゆる急成長しているベンチャーという印象でした。経営者も20代前半と非常に若くて、スーツは一人もいません。ランチを一緒にしたのですが、GoogleやFacebook、Appleといったそうそうたる企業から転職してきた人が多かったです。誰もが腕に自信のあるハイキャリアで、例えるならサッカーのブラジル代表みたいな感じでしたね。とにかく個が立っているんです。誰かが統括してマネジメントするというよりは、それぞれが自由にプロの仕事をこなしているというイメージです。
印象深かったのは、ランチで一緒になった大企業からの転職組の一人が「自分はもうお金はいらないんだ」と、濁りのない瞳で嫌味なく言っていたこと(笑)。彼らはお金に関してはもう十分に稼いでいて、自己実現のフェーズに入っているんでしょうね。

—— 本当にスポーツ選手のような移籍市場ですね。

前田 そうなんです。シリコンバレーに限りませんが、移籍市場が明確にあるので、彼らは1分くらいで自分のキャリアやストーリーをパッと語れるんですよ。自分はこういうことをやってきて、今はこういうことができる、と。

—— どんなエンジニアが求められるのでしょうか。

前田 いわゆるT型人間ですね。まずはフルスタックでいろんなことができることが重要で、さらに「ここだけは負けない」というスキルをひとつ持っていること。ジェネラリストであり、スペシャリストでもある。B社にしても、そういう人たちの集まりでしたね。
ちなみにB社は、社長自らが母校のハーバード大学に乗り込んで、自分で見つけた人材を登用してくるらしいですよ(笑)。そういうのはベンチャーならではですね。

—— 成熟したA社と急成長のB社、どちらが働きやすそうに感じましたか?

前田 うーん……どちらも魅力的に感じました。既に世界展開してて組織的にも成熟してるA社は規模の大きなビジネスに挑戦できそうだし、急成長のB社はリスクもあるけど「これからマーケットを変えるぞ!」という熱気や勢いがすごいし。落ち着いてじっくりやりたいか、ドラマチックな展開をのぞむか……どちらも魅力的ですね。

—— その他に研修で感じたことはありますか?

前田 興味深かったのは、スタートアップを支援するコンサルタントから聞いた話です。その人が言うには、今のサンフランシスコはあまり良い状態ではないのだそうです。というのも、家賃がひたすらに高いし、人が流動的すぎるのだと。スタートアップも最初は調子がよくても、伸び悩む傾向があるそうです。逆に東海岸やシアトルだと長い目で見たビジネスができるのだとか。

—— 日本からの印象とはまた違いますね。そういう話が聞けるのも現地ならですね。

前田 現地ならではといえば、Beacon技術もそうです。米国の方がBeaconについては進んでいるイメージがあったので、ふんだんに事例があるのだとばかり思っていました。ところが、米国でもまだ技術先行でどう生かしていくのかは迷っているところが多いのだそうです。日本からは上澄みだけが見えるので、盛り上がっているんだとばかり思っていたのですが、現地に行くと思ったほどではないことがわかりました。

Tableauカンファレンスで見たFacebookのハッカー精神

—— そういうことが肌で感じられるのが海外研修の醍醐味でしょうか。続いて2回目の海外研修ですが、これはどういった経緯で?

前田 2回目はシアトルです。リクルートライフスタイルではBI分析ツールとして「Tableau」を導入しているのですが、そのTableauカンファレンスに参加するために上司に上申して許可をもらいました。このときはカンファレンスが3日間、研修が1日、他の企業とのミートアップが1日で、合計5日間滞在しましたね。

—— Tableauとはどんなツールなのでしょうか。

前田 Tableauはビッグデータ専用の分析ツールで、簡単にいうとExcelのピボットテーブルがもっと進化したようなソフトです。我々は何十億行というデータを扱っていて、Excelでは対応できません。そこで一昨年くらいに導入したのがTableauです。私は日本のTableauユーザー会の幹事もやっていて、企業と企業を繋いだり、ベンダーに対する要望をとりまとめる仕事もしています。それもあって、Tableauカンファレンスに参加することになりました。

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—— 世界中の企業がTableauカンファレンスに参加するのですか?

前田 ええ。FacebookやExpediaなど名だたる企業がTableauを導入しているので、世界中からユーザーが集まります。特に驚いたのはFacebookのプレゼンテーションでしたね。

—— どんな内容でだったんですか?

前田 当然ながら商用ソフトウェアが満たしていない機能や要件があります。我々はそういうとき、開発元の企業に依頼して製品をバージョンアップしてもらうというアプローチをとるのですが、Facebookは違う。
彼らは「無いなら自分たちで作ってしまえばいい」と考えて、Tableauをハックするのです。その日のプレゼンテーションでは、「みんなもっとダッシュボードの表示スピードを高速化したいよね?でもそんな機能Tableauには無いよね?だから僕たち作っちゃいました!」とさらっと言ってました。そうやって彼らユーザが開発した機能が、遅れて製品に反映されることもあります。
Facebookの社是は「The Hacker Way(ハッカーウェイ)」だそうなのですが、内心「本当かなぁ」と少し疑ってました。現地ではそういう話がゴロゴロしていて驚きましたね。

—— すごい企業ですね。

前田 どうやら米国人にとってもFacebookは他の企業とはちょっと違う特別な存在らしいのです。カンファレンス後の名刺交換でも、Facebookには行列ができます。並んでいた方に「Facebookは米国でも別格だ」という話を聞きました。
それに、Facebookはガツガツしています。だって、Tableauのカンファレンスなのに「この後、ディナーがあるから来ないか」って誘ってくるんですよ。人のカンファレンスに便乗して、プライベートなパーティーに人を集めているんです(笑)。
私もつられて行ってしまいましたが、そこではFacebookへの勧誘なんかも行われていて、すごいなと思いましたね。

—— 同じツールを使っている立場としては影響を受けたのでは?

前田 触発されましたね。帰国してから、さっそく足りない機能を自分たちで開発して実装するところまで持っていくことができました。業務的にも収穫の多いカンファレンスだったと思います。

—— どういった機能を開発されたのですか?

前田 Tableauはデータ形式を仕様としてオープンにはしていません。ですから、これまでは大きなデータを取り込もうとしたとき、データベースをTableauにつなぐ必要があったのです。しかし、そうなるとオフラインでは見られないし、データベースを常に回しておかなければいけません。そこで、Tableauのデータ形式をハックし、数千万行のデータを圧縮して取り込むという機能を開発しました。

—— 学んだことをすぐに実務に応用するスピード感は、流石リクルートライフスタイルという感じです。

前田 「The Hacker Way」にはまだ少し遠いですが「内外の知見を積極的に取り入れてとにかく早く改善に活かす」という意識は強く持っています。最近はオープンソースにコミットしたり、自らがリードしてテクノロジーを動かして行く、というエンジニアも増えてきました。



1回目の旅ではシリコンバレーのスタートアップ企業、2回目の旅ではTableauカンファレンスでFacebookに刺激を受けた前田さん。
3回目の旅は西海岸を離れ、ボストンへと向かいます。そこで前田さんが感じたミートアップの大切さとは。
後編へ続きます。



 

次回「ミートアップの雰囲気がまったく違うことに驚いた」

 

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