深圳の工場がヤバい!ニコ技深圳観察会2017春に参加してきた - 3日目

リクルートマーケティングパートナーズでAndroid / iOSアプリの開発を担当している平野です。

2017/4/3〜5に行われたチームラボの高須さん主催のニコ技深圳観察会に参加してきました。ニコ技深圳観察会は、高須さんのガイドにて3日かけて中国広東省の深圳にあるハードウェアベンチャーやアクセラレータ、Makerスペースなどを巡るツアーです。

このニコ技深圳観察会の参加者はレポートをブログ等に掲載するというルールのため、会社のブログを借りてレポートを掲載します。

なお、今回のニコ技深圳観察会は有休を使った私費での参加であり、リクルートマーケティングパートナーズの業務とは一切関係ありません。

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Ash Cloud 深圳市黑云信息技术有限公司

深圳の工場地帯にあるAsh Cloud。スマートフォンのケースなど製造としては難易度が低いものを生産している工場なのですが、彼らは工場内の業務を統合的に管理するシステムとアプリケーションを作り上げ、従業員はiOSアプリで出勤や休暇の連絡ができたり、生産ラインの情報を見れたり(いま何を作っているかやラインの進捗がどうなっているかだけでなく、おそろしいことにラインごとの利益がリアルタイムに分かる)、財務管理(経費の申請とか)、ラインで生産しているものにあわせた作業マニュアルなんかが見れたりします。

工場内はチリひとつ落ちておらず、工員の制服もいわゆる工場の制服ではなくシンプルながらも秀逸なデザインでした。工場内のいたるところにインフォグラフィックはあるし、デザインやUI/UXに対する執着がやばい工場です。

Ash Cloudのサイトにある動画を見てもらえれば彼らがなにをやっているのかが雰囲気はわかるかと思うのですが、その辺の街工場でも作れるようなスマートフォンのケースを作っている工場で「え、そこまでするの?」みたいなことまで徹底的に詰めている狂気に満ちた工場でした。

従業員用のiOSアプリ。450人くらいの従業員の会社なのに、会社専用のアプリの作り込みが半端ない。
Photo by Yosuke Tanaka
ラインに流れている製造工程マニュアルもiOSアプリから確認できる。
Photo by Yosuke Tanaka
整然としたライン。奥のモニタにはラインごとの進捗などがリアルタイムに表示されている。人間に残されている仕事は機械でやる方が高く付くような箱詰めといった作業のみ。
床に書かれたQRコード。一区画ごとにこんな感じのQRコードがある。
QRコードをiPadで読むとそのゾーンには何があるかが分かる仕組み。わざわざ12インチのiPad Proを使っている。同じことをやるなら値段1/10の適当なAndroid端末でもできるはずなのに、かたくなにiPad Proを使っている。
もともとあった電気スイッチの文字を消し、電気スイッチまでも自社のデザイナがデザインしている
工場の壁に書かれたコスト解析情報。工員のほとんどが読めないだろう英語で書いてある。きっと美しい工場のためには、工員が読めなくてもデザインされて英語で書かれた何かが必要なのだろう。
工場の壁に書かれた絵。自社の業務用iOSアプリがモチーフになっている。
従業員の荷物置き場の棚。こんなところまできっちりデザインが入っている。
Photo by Tammy

高須さん曰く「Ash Cloudの社長が工場を動かすシステムを作りたいがために作った工場」とのことですが、素人目の私から見てもこの工場は経済的合理性からは外れているのが分かるくらいに徹底的にデザインされている工場でした。生産に関わる人がここを見学しても何も得られないような気もしますが、機会があれば一度見ておくべき工場かもしれません。

Seeed Agile Manufacturing Center

Seeed Agile Manufacturing CenterSeeedが運営する工場です。工場というものは原則として同じものを大量に作ることに向いているのですけれども、Seeedはかなり小さい数からの基板の製造を請け負っているために、数個から数百個という工場から見るととんでもなく小さい数の基板を製造することに特化しています。この工場は上述のAshCloudとは違い、かなりのところが人手で行われていました。

検品の様子。少量多品種なので人手でやっている。
治具置き場。少量多品種なので、大きくない工場の中に異様に大量の治具が置かれている。基板ごとに治具を自作しているらしい。
工場内の基板の設計を修正するスペース。発注された基板がおかしい際はここで設計を修正している。

Chaihuo x.factory

Chaihuo x.factorySeeedらが新たに作ったメイカースペース。大手不動産デベロッパーと協力し、4,000万元(約64億円)をかけ2,000平方メートルの一帯をメイカーのための施設としてメイカースペースや300名のメイカーが滞在可能な一帯を造成しています。

まだオープンして間もないみたいなのですが、ハードウェアを製造したい世界中の起業家を集めてプロトタイプを作ったり、深圳の工場と結びつけたりする場所の中心として稼働していくことになるのかと思います。

Seeed/柴火のWayne Linさん
Photo by tks

Insta 360

スマートフォンに接続して使用する全天球カメラInsta360のオフィスにもお邪魔しました。製品としてはRicohのThetaに近いのですが、スマートフォンに接続して使うことができるためにスマートフォンの使いやすいUIで撮影できるのが特徴。

Insta360 Air
http://blog.insta360.com より引用。

オフィスを一通り見せてもらったのですが、ぱっと見て「すごく人が多い」というのが第一印象でした。200名くらいいるとのことでしたが、日本で同じような規模の製品を作るのに比べて1.5倍から2倍くらいの人はいる気がします。社員の平均年齢もおそらくかなり若く、ほとんどの人が20代でしょう。

また日本のメーカーと違い、製品ラインナップが少ないため複数の製品を掛け持ちして兼業状態になるようなこともないので、製品開発もマーケティングも集中してできるというのもかなりの強みです。このように日本のメーカーに比べても明らかにリソースフルな状況なので、勝ち負けの話になるならばこういった高付加価値製品分野においても「これは簡単には勝てない」状況であることを強く実感しました。

Insta360のオフィス

そして1991年生まれのCEOがとてもいい人で、個人的にはTheta派だったのですがCEOの人柄でInsta360を応援したくなりました。
Insta360は日本でも販売しており、ヨドバシカメラなどで取り扱いがあります

最初のプロトタイプ(筐体3Dプリンタ)を手に語るInsta360 CEO。
Photo by tks 

Tencent VR Team

Tencent(騰訊)という世界最大のゲームメーカーのVRチームへ訪問。内容についてはコンフィデンシャルなものが含まれるため割愛しますが、ちょうど訪れた前日にTencentの時価総額が2790億米ドル(約30兆8100億円)に達し、時価総額で世界10位になったというニュースが流れていました。

日本だとTencentを知らない人の方が多いのだと思いますが1)私も深圳観察会に行くまでは名前くらいしか知らなかった、8億人を有するチャットサービスを持つわ、WeChat Payというものすごい決済サービスも持つわ、ゲームでは世界一だわ、でかいECサイトも運営しているわ、その他もろもろやっているとんでもなくでかい企業です。

成田から飛行機でわずか5時間の地にこれほどの起業があるというのは、エンジニアならば意識しておいてもいいのかもしれません。


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脚注

脚注
1 私も深圳観察会に行くまでは名前くらいしか知らなかった