リクルート メンバーズブログ  点を線にするのは偶然と意思~Increments及川卓也氏が語る「プロダクトマネージャーという係」(下)

点を線にするのは偶然と意思~Increments及川卓也氏が語る「プロダクトマネージャーという係」(下)

11月21日に開催されたリクルートテクノロジーズの社内カンファレンスに登壇した Increment株式会社の及川卓也氏。スピーチ後半では、自身がキャリアを構築する上でのこだわり、「偶然」と「意思」の重要性について話しました。誰もが知る外資系IT企業の管理職から、社員14人の日本のベンチャーに飛び込んだのはいったいなぜなのでしょうか。

「過去に見た未来」は繰り返さない

「去年今の会社に転職したのですが、その前あたりから何かやろうかなと思って探していました。これまで全ての会社を9年サイクルで移ってきたので、そろそろ何か新しいことをしたいなと。

Googleもそうですが、報酬がいいことは、良いことばかりではない。ストックオプションは魔物です。うまいもので一気にはもらえないようになっていて『5年で何パーセント』とか言われていくらもらえるか計算すると、人間腐るものです(笑)。

それでしがみついていても、ずるずる同じことの繰り返しになってしまう。外資に20年いると、うまくやる立ち振る舞いも覚えてしまいますし、外からは『Googleの人、すごい!』と言われていい気持ちに……。これはやばいと(笑)」。

「そこで、僕はレーダーチャートを作ってみました。自分の差別化要因を考えたんです。話すのはまあまあうまいけど、MSでエヴァンジェリストとして食ってる人には適わない。何をやりたい?と自問自答しました。もちろんまた外資に行って日本法人の管理職という手もあったけど、だいたいそれも既定路線で、日本のトップは古くはDECやIBMといった外資大手の出身者がローテーションしてるようなもんなんですよ。ほんとにこれやりたいのかな、と思った訳です」

「既定路線を行く、というのは結局前やってたことの繰り返しにすぎない。これ本当にやりたいのかという自問自答、その繰り返しでいいのか。『ここなら明らかに全然違う』という、ほかの人が選ばないことをやってみようと思いました。GoogleというグローバルのIT企業から日本企業で、社員14人、社長28歳のスタートアップにジョインする。きっとこの経験で、誰も真似できないものを得ることができる。そこに懸けたという訳です」

偶然と意思が「点」を「線」にする

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及川「僕はMSで何度か、メインストリーム以外を担当したことがありました。一番がコンビニのレジ端末、あれもWindowsなんですね。端末の開発でお金をかけられないと、フォントはMSゴシックをそのまま使っていることも多く、文字をみると『あっ』と分かるわけです(笑)。でも、どこで自分の製品使われているか知るのが楽しいものなんですよ。

腐ってもおかしくないタイミングは何度もありました。でも腐らなかったのはなぜか、それは自分はどんなことにも興味を持てたから。『コネクティングドッツ』です。これはスティーブ・ジョブスが言ってたことと同じ。

ジョブスはもぐりで聴講していた大学の授業で、カリグラフィの美しさを偶然学びましたよね。あれがアップルの製品の美しさにつながりました。

私の場合、DECでJISキーボードを作った経験が、それに該当します。『Chromebook』という、Chromeしか動かないマシンがありますが、その日本語キーボードの配列は自分が作りました。その時も単にユーザー体験、すなわち入力効率が良いかだけでなく、金型作るコストなども総合的に考えて進めることができました」

「偶然に加えて、もう一つ大切なのが『戦略』つまりは意思です。私はキャリアパスをかなり考えるほうでした。一つは外資にいたからということが挙げられます、部下のキャリア形成の相談やアドバイスをする上で、自分を振り返ることが多かったんですね。チームマネジメントもサイエンスであり工学である――。更に自分のこととなると、結構自分でコントロールできるんですよ」

プロダクトマネージャーとして世界を救いたい

及川「私は節操なく、いろんな仕事していますが軸はあります。

  1. 技術
  2. エッジ
  3. 人がやらないこと

この3つにこだわっています。

こと『マネージメント』と呼ばれる仕事においては、技術者が技術力を高めるのと同じように、マネジメントに興味があり能力があり、スキルが高い人がそう動くべきだと思うんです。

会社組織でマネージャーは『偉い人』という側面をクローズアップされがちです。でもそれだけじゃない、サーバントリーダーシップが求められます。タレントのマネージャーはタレントより偉いわけではないですよね。二人三脚でいかに活用されるか、お金を稼げるか、なんです。

マネジメントは基本的に人を支えるもの。強力なリーダーシップがないと務まらないと思っています」

「今後も私はずっと、技術にこだわり続けたい。そして偶然と必然を大切にします。あと、やはり人が好きです。プロダクトチーム、エンジニアリングチーム、いろんなチームがありますが一人が優秀であってもだめです。そこはサイエンスや工学的な観点と同じようにマネジメントしていくスキルが求められます」

「プロダクトマネージャーとして世界を救いたいと思っています。日本のGDPは世界3位に甘んじています。もう20年くらいフラットですよね。

でもIT産業を見ると、日本の国力アップにつながるのではないかと。世界の方々を救うことにもつながる。エンジニアだけでは作れない、モノは育っていかないんです。これからますますプロダクトマネージャーという係で日本を良くしていきたいと思っています」

大企業であることを否定する組織が、より成長できる

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講演後に設けられた質疑応答の時間では、リクルートテクノロジーズのエンジニア達が及川氏に率直な疑問を投げかけました。

――どういうきっかけでエンジニアからマネージャーに転向されたのでしょうか。

及川:コードを書くのも大事ですが、スペックに興味をもてるようになったことでしょうね。今の日本の大手外資系IT企業もそうですが、米国本社に優秀なエンジニアはたくさんいるんですよ。ただ作るものがそもそも間違っていることが多い。インターネット標準はこれ、国際標準はここ、というのを誰かが定義してあげる必要があります。

若いときから自分がやりたいことを成し遂げようとしていました。でも人を惹きつけられないと、やりたいことは実現できない。マネージャーは別に何人もいても、「お前のやってることおもしろいな。プロジェクトになったら入るよ」と言ってもらえるように人を惹きつけられないと。

――自分がやりたいことを正しくやるために、必要なポジションにいた、ということでしょうか。

及川:そのとおりです。

――日本だと、会社ができたり潰れたり、といった動きはそこまで激しくありません。会社が伸び盛りから成熟のステージに到達した時、そこからより上げていくにはどうしたらよいのでしょうか。

及川:人材流動性は肝だと思います。企業の寿命は20~30年と言われています。IBMやGEは創業時の会社と全く違いますね。名前は一緒でも事業形態も違います。中の人もどんどん変わっているし。でもそれは良いことですよね。やりたいことができなくなった、その時は他の道を選ぶほうが本人にとって幸せです。

ポイントは組織だと思います。その事業が技術トレンドにおいてどういうディレクションで進むべきかをトラッキングし、メンバーにも働きかけていくことが重要です。もちろん個人もそういう志向を持ったほうが良いのですが。

企業成長によって会社が変わってくるというのはその通りだと思います。

普通に行くと、会社が成熟すると官僚的になってしまうんです。Googleは、そうならない力学が働いていた組織でしたね。自分達が大企業だが、大企業でないと否定し、自分達が在りたい姿を模索していく。リクルートはどこかしらGoogleに似ていそうな気がしますね(笑)。