リクルートの社内ICT領域におけるデータ利活用の取り組み

リクルートの社内ICT領域におけるデータ利活用の取り組み

この記事はリクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023 5日目の記事です。

  • 目次
    • はじめに
    • ICT統括室の役割
    • ICT統括室のデータ利活用の課題
      • 課題対応1:データ利活用に対する理解獲得
      • 課題対応2:データ分析基盤の構築
      • 課題対応3:データ利活用人材の育成
    • データ利活用の成果
    • おわりにとこれから
    • 宣伝

はじめに

こんにちは。

ICT統括室のデータ利活用推進を担当している和田内海です。
この記事では、ICT統括室におけるデータ利活用の取り組みについてご紹介します。

・データ利活用を行うにあたって、どのような課題がありどう解決したか
・データ利活用に取り組んだ結果、どのような効果があったか

ICT統括室の役割

ICT統括室は、リクルートグループの社内ICTサービスを提供する情報システム部門です。

入社時に提供する端末やIDなどリクルートグループで従事する従業員やパートナーが利用するサービス(社内ではR-ICT/りくと・・・と呼称)を提供しています。サービス提供を通じて利用者の生産性を向上させることをミッションとしている組織となります。

社内ICTとは言え大きな会社であるため、例えば社内アカウントであれば約10万、PC端末も約5万台を運用するなど、サービス規模が大きくなっています。(2023年12月5日時点)

上記のような大規模サービスを運用するためには安定したサービスの提供を行いつつ、より生産性を向上させるようサービスを変化させる必要があります。
そのための手段として「データ利活用」を進めています。

ICT統括室のデータ利活用の課題

今までリクルートグループの各事業は積極的にデータ利活用を進めてきており大きな効果を創出していますが、正直なところ我々が所属するICT領域のデータ利活用はあまり進んでいませんでした。

その原因は、大きく分けると以下の3つです。

1. データ利活用を行う体制が整っておらずデータ利活用の進め方が分からない
2. データ利活用の前提となるデータ分析基盤が存在しない
3. データを使いこなせる人材が少ない

そのような中でも我々は少しずつデータ利活用を進めて来ました。

進める中で、毎回のデータ収集リードタイムに課題を感じるようになりました。
本来の分析業務に集中できず、データの収集・加工に多くの工数が必要という構造的な問題が発生していました。
さらに、データ分析チーム(私と内海が在籍)が都度データを収集する中で、データの構造が変化したり、古いデータが利用されてしまうといった品質に関する問題も発生していました。
その結果、実施した施策の効果が低下してしまうという問題も発生していました。

ここまでの現状をまとめると、データ利活用を推進するには以下の課題を解決する必要があります。

1.データ利活用を行う体制を整える

  • その重要性や推進方法を組織に浸透させ、なぜデータ利活用が必要か・どのようにデータ利活用を進めればよいかを共有する「データ利活用の推進における理由・方法の共有」が必要。
  • データ分析チームで対応できる案件は上限があるため、ICT統括室内のメンバーが自らデータ利活用が行えるように、データ分析のベストプラクティスやフレームワークなどの「データ分析手段の提供」が必要。

2.データの一元管理を行う

  • データの集約と一元管理のため「データ分析基盤の整備」を行い、データ収集の工数削減とデータの品質向上を実現させる。

3.上記を使いこなすデータ利活用人材を育成する

  • データを利用した課題解決を前提とした施策立案、そして実行をしていく。
  • そして施策立案のために必要な「データマネジメント」を行う。

ICT統括室が目指す状態としては、各サービス担当者が自ら分析を実施するセルフBIを行える状態を作りたいと考えていました。
その理由は、データ分析チームで対応出来るリソースには限りがあるため依頼案件をお断りすることも増え、せっかくデータ利活用の力を得たいと思っているのに我々の都合でそれを止めてしまうというジレンマが発生していたからです。
そのため、データ分析チーム以外の人でも自身でデータ利活用が出来るようになることで、データ分析チームのリソースに影響されないデータ利活用が可能な状態になり、結果として高速でPDCAサイクルを回し従業員の生産性向上に向けたサービス改善を行うことが可能となりました。

課題対応1:データ利活用に対する理解獲得

課題を解決しデータ利活用を進めるためには、データ利活用の重要性やどのようにデータ利活用を実施すれば良いかをICT統括室内に浸透させる必要がありました。データ利活用に対する理解を深めてもらうことを目的とし、以下の活動を実施しました。

活動の内容は大きく分けて2つです。
1つがデータ利活用事例の創出、もう1つがその事例を共有することです。
事例を共有することでより多くの人にデータ利活用をしてみたいと思ってもらうためです。

1.データ利活用事例の創出

    • サービス担当者へヒアリング (我々から各ユーザーに向けたアプローチ)
      • データ分析で解決できる課題をピックアップし事例に繋げられる課題の調査
    • データ利活用相談会の開催 (各ユーザーから我々に向けたアプローチ)
      • データ分析に取り組もうとしているが進め方がわからないなど、データ分析に関するお困り事/相談の受付と課題解決の支援
    • データ分析ワークショップの開催
      • 分析ベストプラクティスと実データを用いて施策の仮説立案と可視化/分析を実施することでデータ利活用の解像度を向上させる

2.データ分析事例の共有

      • データ利活用によってどのような成果を上げたかを組織内に共有し次の依頼者を募集

これら取り組みを通じ、ICT統括室内のサービス担当者へデータ利活用を利用した価値提供やサービス担当者との信頼関係の構築ができ、データ利活用の重要性やデータ利活用方法などを浸透させることができました。取り組み前と比較し、データ利活用へ取り組むサービス担当者が増加しました。

課題対応2:データ分析基盤の構築

次は分析対象とするデータ収集の課題を解決する必要があります。データ分析基盤には、構築のハードルが高くなくTableauなどのBIツールからも接続可能、かつ、Googleスプレッドシートからも接続可能なGoogle Cloud Platform(BigQueryなど)を採用しました。概要構成図は以下の通りです。

図1:データ分析基盤の構成図

ETLはGoogle Cloud Storageへのファイルアップロードをトリガーとして後続のETLが動作するといったシンプル&低コスト運用が可能なイベントドリブン設計としました。余談ですが、ETL処理はDataflowを利用しています。Dataflow上ではPythonを採用することにより、Pythonの多彩なライブラリを利用できるメリットがあります。csvやjsonなどに加えて、Excelなどの業務上利用することが多いテキストデータ以外の拡張子ファイルにも対応しています。また、scikit-learnやLightGBM等を利用すればクラスタリングや機械学習も可能になります。アップロードされたデータに対して、何らかのラベリングや予測などの処理を実施し、その結果をBigQueryに格納するということも可能な構成としています。

課題対応3:データ利活用人材の育成

そもそも「データ利活用が出来ている状態」とはどういう状態なのでしょうか。ICT統括室では「ビジネス要件とデータ要件を結びつけ、効果を創出出来ていること」と定義し、この定義に沿って人材育成を行っています。

図2:データ利活用人材の定義

ICT統括室は上図の右側(データ/IT)領域のメンバーが多く、その知見を持った優秀なメンバーがたくさんいます。しかしながらデータをどうビジネス/ユーザーに活かすのか?(上図の左側)が弱点でした。

施策を企画立案する際に、「この施策はユーザーにとって何が良くなるのか?ユーザーがどう喜ぶのか?」を意識することでこの観点は少しずつ改善出来てきているのかなと思っています。
但し、その観点を持ったとしても本当にやる意義がある/効果が出る施策なのか?見立てはどうなのか?ということを企画者自身で説明出来る(具現化出来る)必要があります。

ICT統括室ではデータの可視化にBIツール(Tableau)を利用することが多い為、BIスキルの向上を目的として「Tableau DATA Saberプログラム(※)」を教育コンテンツの1つとして利用しています。ICT統括室の一部メンバーが師匠(育成する側)となりApprentice(育成される側)を育て、育成を経て師匠となり、その後また新たなApprenticeを育てていくという一連の流れを作ることで組織の継続性の担保も行っています。

育成完了者がデータ利活用人材となり、そのメンバーが効果を創出するデータ利活用を推進することでICT統括室全体の効果総量が上がってきているという状態となっています。


データドリブン文化を広めるための教育コンテンツであり、3つの力を養う。
①データを見て理解できる力
②データドリブン文化を伝え、広める力
③同じ世界を共有し共に進む仲間と出会う

データ利活用の成果

まだまだこれからではありますが、上記の活動を経て少しずつ効果が現れ始めています。詳細は申し上げられませんがスマートフォン利用料を年間約20%削減、複合機の利用料を年間約25%削減出来ています。
これからも上記の活動を通じて、社内ICT領域の生産性向上を目指していこうと考えています。

おわりにとこれから

今回はリクルートの社内ICT領域におけるデータ利活用の取り組みを紹介させていただきました。

ほとんどデータ利活用が行われていない状態からデータ利活用の浸透やデータ分析基盤の整備を行い成果を出すまでの過程を少しだけお話しさせていただきました。しかしながらデータ利活用の取り組みはまだまだ始まったばかりです。

これからはデータ分析チームだけではなく組織全体でのデータ利活用を目指すために組織内教育を始めました。経験をまとめシェアする勉強会を開催したり、引き続きTableau DATA Saberプログラムを用いたBIスキル向上勉強会を開催したり・・・といった形です。

これらの取り組みにより、データ利活用の取り組みを更に加速させていければと考えています。

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リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023では、リクルートの社内ICTに関する記事を投稿していく予定です。
もし興味があれば、ぜひ他の記事もあわせてご参照ください。