Recruit Data Blog

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目次

はじめに

こんにちは!データ推進室でデータサイエンティストをしている金光です。日々の業務では、マッチングの最適化やAIを活用した営業生産性の向上などに取り組んでいます。

2026年6月8日〜12日、群馬県高崎市のGメッセ群馬で開催された人工知能学会全国大会(JSAI2026)に参加してきました。今年は記念すべき第40周年。記念式典や「人工知能学会寄席」といった企画もあり、学術の場ながらお祭りのような賑やかさでした。

リクルートデータ推進室は昨年から続けて3つのオーガナイズドセッション(OS)を企画し、研究コミュニティに議論の場を提供しています。今年はリクルートグループから計17件の発表があり、私自身も、そのうちの共同研究に共著として加わりました。

本記事では、自社の取り組みを起点に、現地で特に惹かれた研究を「マッチングと最適化」と「AIエージェント・生成AIの活用」の2つの切り口で紹介します。最後に、私たちのように多様なマッチングプラットフォームを展開している企業では普段触れることのない「Physical AI」や、「瞑想とAI」のように日頃の業務では出会えない領域に触れられる、学会という場の醍醐味についてもお話しします。

JSAI2026 会場エントランス(Gメッセ群馬)

リクルートグループからの登壇・発表

データ推進室は昨年から続けて、次の3つのOSでオーガナイザーを務めています。研究を聞きに行くだけでなく、産学の研究者・実務家が集まって議論する場そのものの設計に努めています。

  • OS-13「AIを活用したマーケティング実践」(organizer: 西村直樹)
  • OS-18「数理最適化」(organizer: 梅谷俊治)
  • OS-19「非構造データからの情報抽出」(organizer: 中田百科)
OS-13「AIを活用したマーケティング実践」(西村がオーガナイザー、リクルート・笠原が発表)

今年はリクルートグループから計17件の発表があり、その多くが社外との共同研究によるものでした。このうち大学・研究機関と共著した発表は、次の9件です。

発表 共同研究先
営業架電スケジュールの最適化:最小費用流解法と動的シミュレーション評価 (OS-13) 筑波大学(高野祐一, 池田春之介)・法政大学(鮏川矩義)
宿泊施設におけるキャンセル予測の精度向上が収益に与える影響の評価 (OS-13) 神奈川大学(佐藤公俊)
眼鏡新商品のマルチモーダル需要予測 (OS-13) 筑波大学(高野祐一)・法政大学(鮏川矩義)
二層加法リスクモデルを用いた営業架電の成約率予測 (OS-13) 筑波大学(高野祐一, 池田春之介)・法政大学(鮏川矩義)
NLData2Opt:自然言語とデータに基づく数理最適化問題定式化のためのパラメータ導出・予測ベンチマーク (ポスター) 京都大学(鹿島久嗣)・北海道大学(李吉屹)
法令に基づくローカライゼーションによる社会的バイアス評価 (一般セッション) MBZUAI(金子正弘)・国立情報学研究所(関根聡)
国内宿泊予約データを用いた地域間観光流動の重力モデル残差分析 (一般セッション) 東京大学(鳥海不二夫)
双方向推薦システムにおける長期的マッチング最大化に向けた代理目的関数の設計と実証 (OS-18) 東京科学大学(中田和秀, 小林健)
オンライン旅行代理店におけるポイント付与キャンペーンの売上アップリフト予測 (ポスター) 京都大学(鹿島久嗣)

企業との共同研究や自社単独の発表も含む全17件は、 JSAI2026のプログラム検索 から確認できます。実務の課題に産学連携で取り組む、その協働のかたちが根づいているのを感じます。

私自身も、筑波大学との共同研究に共著として加わっています。ここからは私の実務上の関心を起点に、学会で出会って刺激を受けた研究を紹介します。

注目した研究①:マッチングと最適化

OS-18「数理最適化」で続けて聴いた2本が、どちらも最適化で目的や重みをどう決めるかという共通の問いに触れていました。一方はそれをデータから学ぶ話、もう一方はいまは人手で選んでいる話です。並べて聴くと、自分の仕事に引きつけて考えたくなる対比でした。

OS-18「数理最適化」(座長の梅谷(右)と㈱エルデシュの岩永氏(左))

そもそも「何を最適化すべきか」を、データから逆算する。北岡旦氏(日本電気㈱)の「逆混合整数計画法:制約条件学習からの目的関数学習」は、通常の最適化が「目的関数+制約 → 最適解」を解くのに対し、その逆向きに「観測された解(たとえば過去のスケジュール)から、背後にある目的関数と制約条件の両方を推定する」逆最適化のアプローチでした。これまで目的関数だけ・制約だけを学ぶ手法はあっても、その両方を同時に学ぶ方法は知られておらず、まず制約条件を学び、その結果を使って目的関数を学ぶという2段階の手法を理論保証つきで提案していました。決定変数が100個規模のスケジューリング問題でも平均5分半ほどで学習が完了することを実証していました。私の中に残ったのは、現実の意思決定では「そもそも何を最大化しているのか」自体が曖昧なことが多い、という問題意識です。その目的関数をデータから復元できれば、熟練者の判断を再現・自動化できる。営業活動や商談のように、定式化が見えづらい問題にこそ効くのでは、と聴きながら考えていました。

自社のマッチング最適化では、オンライン実験による目的関数の調整を行なっている。後半で改めて触れる、西村らの「双方向推薦システムにおける長期的マッチング最大化に向けた代理目的関数の設計と実証」(OS-18)。求人マッチングを、求職者側・企業側の受容意向の単純な積で最適化するのではなく、求職者の活動状況とも言える行動量やタイミングに応じて、新たな行動を起こした際に見込まれる将来的なマッチングの可能性も考慮し、サービス利用期間全体を通して求職者にとって最適なマッチングの実現を目指す取り組みです。その将来増分の推定はデータがスパースになりがちなため、行動が積み上がるほど高く・時間が経つほど低くなるという単調性の制約を課した最適化で安定させているのが工夫どころでした。人工データのシミュレーションと実サービスのA/Bテストで検証され、将来効果を重視する重みγを適切に設定すると行動数とマッチング数がともに伸びる一方、γを大きくしすぎると行動数は増えてもマッチング数はかえって下がるというトレードオフもシミュレーション実験により確認されていました。また、質疑の中で実務上はγの設定はオンライン上のA/Bテストにより決定されている、とも言及されています。

厳密には、両者は別の問題を扱っています(北岡氏は逆最適化で目的関数そのものを学び、西村らはマッチングの重み γ をA/Bテストで選択する)。それでも、「人手のチューニングを、できるだけデータ駆動に寄せていく」 という発想の向きは通じていて、両方を続けて聴けたことで、自分たちのマッチング最適化に残る人手のチューニングを、いつかデータから学ぶ形に変えられないか、と考えるようになりました。

注目した研究②:AIエージェント・生成AIの活用

今年の学会の重心は、LLM・生成AI・エージェント・世界モデルへと明確に移っていました(関連セッションの数がそれを物語っています)。その潮流の中で、私が特に「使い方」の観点で惹かれたのが、OS-13「マーケティング実践」に集まっていた、人がAIとどう協働すると成果が変わるかを扱う研究群です。いずれもAIに置き換えさせるのではなく、AIを人間の能力の拡張や意思決定にどう活かすかという発想で共通していたのが印象的でした。

他者の思考を学んだAIと組むと、創造性は上がるか。日野恭佑氏(㈱電通)、佐々木 一氏(東京大学・㈱電通デジタル)の「他者の思考様式を学習したAIとの協働が創造的タスクの成果に与える影響」。自分の思考様式を学習させたAIと、他者の思考様式を学習させたAIをそれぞれ相棒に、コピーライティングという創造的タスクで成果を比べる実験です。聴きながら私が気になったのは、トレードオフの存在でした。仮に他者AIで創造性が上がるとしても、一緒に作業を進めやすい操作性はむしろ自分に近いAIの方が高いのではないかと考えながら聴講しました。

論文の結果は、まさにこの見立てを裏づけるものでした。他者AIと組んだ方が、生み出すコピーの独創性は高く、発想の広がりや自分にはない視点に到達できたという実感も伴います。一方で、自分に近いAIの方が作業のしやすさ・成果物への納得感・AIへの信頼感は高い。「創造性 ⇔ 操作性(生産性)」のトレードオフが、実際にデータで示されていたのです。さらに面白いのは、独創性が自分とAIの思考の距離に対して逆U字を描いたことです。近すぎても離れすぎても伸びず、ほどよく異質なAIが最も効く。著者らはこれを「最大の他者性ではなく『最適な他者性』を設計する」と表現し、発散フェーズは他者AI・収束フェーズは自分のAIと使い分ける設計まで示唆していました。AIをチームに迎えるときの実践的な設計指針の解像度が上がる発表でした。

古典的な方法論に、LLMを掛け合わせる。南雲陸氏(㈱電通デジタル)、佐々木 一氏(東京大学・㈱電通デジタル)の「LLMを活用したペルソナベースのデルファイ法による多視点都市政策評価」。デルファイ法は、専門家の集団に同一のアンケートを行い、その結果を全員に提示して再び個別に回答を求める、という過程を繰り返して意見を集約していく古典的な合意形成手法です。本研究は、その「反復・集約・再提示」という骨格を保ったまま、人間のパネルを合成ペルソナ(LLM)に置き換える試みでした。狙いは合意形成そのものの自動化ではなく、その手前の争点の可視化、つまりどの論点に情報不足や懸念が集まりやすいかを、低コストかつ再現可能に洗い出すことにありました。AI活用により新たな意思決定手法を発明するのではなく、既に良いとされてきた型を増幅することにAIが活きる。そう気づかされました。

おわりに

ここまで紹介してきたのは、いずれも自分の業務にどう活かせるかという目的で聴いた研究でした。

ただ、学会の価値はすぐ実務に効く話だけではありませんでした。むしろ私が今年いちばん豊かだと感じたのは、普段の業務では決して足を踏み入れない領域にまで越境できることです。

尾形哲也氏(早稲田大)のチュートリアル「発達ロボティクス的視点とPhysical AIの関係」は、その象徴でした。ロボットにAIを使うのではなくAIがロボットを使う。AIが人のスキルを模倣し、自ら世界と関わって学んでいくのがPhysical AI、という視点をお持ちだと解釈しました。正直、自社のビジネスに短期で直結する話ではありません。けれど、「人材」を扱うリクルートグループにとって、人の働きやスキルがロボットへ広がっていく未来は確実に関心領域であり、その分野の歴史・体系・現在地を第一人者から一望できたのは、大きな収穫でした。最終日には、個人的に関心のあった「瞑想とAI」のセッションにも顔を出しました。AIの議論が、認知科学や身体性、果ては人間とは何かという問いにまで地続きで広がっているさまは、純粋に知的好奇心を刺激してくれます。

そして何よりこうした実務の外側のテーマでも、第一線の研究者や協賛企業の方々と直接言葉を交わし、次につながる関係が生まれる。日頃の業務の中では決して得られない情報と繋がり、そして未来への投資ができる。それが学会という場の、何よりの価値だ と改めて感じた5日間でした。

来年のJSAI2027では、よりパワーアップした形での参加ができるように、日々研鑽を続けていこうと思います。

金光俊輔

データサイエンティスト

金光俊輔

BIG3 Total 505kgのマッスルサイエンティスト