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リクルートのデータ推進室長 野村が自ら聞き手となり、現場の最前線で試行錯誤を続けるスペシャリストたちの「手の内」を紐解く連載企画。 第3回のゲストは、2013年に新卒入社した李 石映雪です。北京大学を卒業しリクルートの門を叩いた彼女は、いかにしてデータサイエンスの力で事業を動かし、現在は インディードリクルートテクノロジーズ (以下、IRT)の役員としてデータ組織を率いるまでに至ったのか。 かつて「メンターと新人」として日々議論を交わした二人が、リクルートグループで働く上での「裁量」「自由」とは何か、そしてどのような思いのもと「機会損失のない社会」を技術で実現していくかについて語り合います。

〈プロフィール〉

李 石映雪
2013年、株式会社リクルートホールディングスに新卒入社。北京大学ではEECS(Electronics Engineering and Computer Science)を専攻。リクルートホールディングスが手がけるグローバル人材採用プロジェクト『WORK IN JAPAN』を通じて入社。データ解析のスペシャリストとして『SUUMO』の開発・運営に携わった後、HR領域へ異動。現在はインディードリクルートテクノロジーズの役員としてデータ組織を統括する。

野村 眞平
株式会社リクルート データ推進室 室長。ベンチャー企業で経験を積んだ後、リクルートへ。入社後は住まい事業領域で集客最適化やレコメンドシステムの構築、マーケティング分析などを担当。以降はリクルートグループにおける複数の事業会社/機能会社におけるデータ組織を統括し、ユニット長や執行役員を歴任。2021年のリクルート統合後は、データ推進室VP(Vice President)を経て2025年より現職。

💡 あわせてご覧ください
本連載の聞き手であるデータ推進室長・野村が、これまでの自身のキャリアや、リクルートのデータ組織が目指す未来について語ったインタビューはこちら。
👉 【インタビュー】データ推進室長・野村眞平が語る、リクルート流データ組織の現在地

「なんでこんなことやるんですか?」入社早々文句を言う大型新人

野村: 李さんは2013年の10月入社だから、もう13年目になるんだね。当時は日本語も勉強中という状況で、北京からリクルートに来てくれた。

李: そうですね。当時のリクルートは今以上に「ポテンシャル採用」の色が強く、私も具体的な配属先が確定しないまま入社しました。大学では情報系を専攻していたので、開発に関わる仕事をするつもりで入社しました。ところが、感情分析という自然言語処理(NLP)の研究をしていたからか、実際配属されたのは「データマーケティンググループ」。「あ、想定していたところとぜんぜん違うわ」と思ったのを覚えています(笑)。

野村: 当時はまだデータ組織も黎明期。僕や数人のメンバーで、データをいかに事業の武器にするか試行錯誤していた時期だった。李さんにデータサイエンスの基礎を固めてもらおうと、多変量解析やベイズ統計なんかの英語の教科書を用意して、「1週間に1章読んで、エクササイズの問題を全部解いてきて」って宿題を出したんだよね。エクササイズの解答も作って準備していたのを覚えてるよ。

李: でも、当時の私は「なんでこんなことやるんですか?目的が明確ではないので、やりません」と言ってやってこなかった(笑)。「本を読んで問題を解くだけなら大学でやることだし、必要になったら勉強する。私は今、ここでしかできない仕事がしたいんです」と。今振り返れば、当時から私はとにかく自分の中の「納得感」が大事でした。

野村: 李さんは、自分が取り組むべき意義を腹落ちさせないと、安易に迎合しない。でも、一度納得すれば、誰よりも高い視座で課題を突破していく。その片鱗は、入社すぐの頃から見えてたね。

数時間の激論は恒例行事。その先にあった「腹落ち」の瞬間

野村: 李さんがリーダー、マネージャーとステップアップしていく中でも、僕たちの議論はいつも真剣勝負だった。特に振り返り面談(査定フィードバック)の時はすごかったよね。2時間なんかでは終わらず、さらにもう数時間議論することもあった。

李: お互い一歩も譲りませんでしたね。野村さんが「こういう結果だから評価はこうだ」と言われても、私が納得できなければ率直に意見を伝えたし、逆に野村さんが高く評価してくれたポイントに対しても「そこはできていて当然であり、もっとこちらを見るべきだ」と議論したり(笑)。

野村: 評価の良し悪しという以上に、「事実をどう解釈するか」に一切の妥協がなかったね。普通は上司から良い評価を提示されたら喜ぶものだけど、李さんの場合は「いや、私の今期の出来栄えなら評価は『2』のはずです。野村さんは何を見て『3』だと言っているんですか?」って、低評価を主張して僕に噛みついてくる(笑)。逆に僕が「ここはもう少し頑張れたから『2』だね」と言うと「いや、『3』でしょう!」となる。

李: あまりに毎回白熱しているから、当時オフィスのフロアの恒例行事になっていて、「またあの二人が言い争ってる」って周りから言われていた(笑)。

野村: あの「忌憚のない意見を出し切って、腹落ちするまで議論を尽くす」というやり方が、当時のデータ組織の文化でもあったよね。議論が白熱していたので、周りからはちょっと怖い組織みたいに見えていた部分もあったみたいだけど。

李: ありましたね(笑)。私も「ちゃんと話を聞け!」と悔しさでヒートアップしてました。お互い納得するまでとことん議論し尽くすスタンスは、今のVP会(データ組織の各ユニット長が集まる会議)なんかにも引き継がれていますよね。

機会損失のない社会にしたい、というモチベーション

野村: 李さんと話していて、いつも熱量を感じるのは「社会への還元」について話す時だよね。李さんが技術を磨く、その根底にあるモチベーションについて改めて聞かせてほしい。

李: 私は、「一人ひとりの人生における選択が適切になされる社会」を作りたいんですよね。今の世の中を見渡すと、情報の格差や移動コストの高さゆえに、本来ならもっと活躍できるはずの人が、その機会を失っていることがある。これが、私が一番解消したい「機会損失」です。

野村: 人生における機会損失が起きる場面。例えば、仕事選びや住まい選びなんかがあるね。

李: 転職を例に挙げると、今の環境に不満があっても、次に移った先で成功する自信が持てないため、「本当は100点を目指せるはずなのに、60点で我慢して今の場所に留まる」という選択をしてしまう人が大勢います。これは、個人にとっても社会全体にとっても、大きな機会損失じゃないですか。

野村: 李さんは、その不均衡を直していきたいと感じている。

李: 世の中にもっと機会を届けたいんですよ。情報や技術が適切に行き渡っていれば、その人が持つポテンシャルが最大限に引き出される場所へ、自由に、そして安心して意思決定できるはず。より良い意思決定に必要なたくさんのコストを、技術で下げる。それによって、「誰もが自分の価値を最大化できる状態」を追求したいんです。

野村: 単なるビジネスの成功ではなく、社会の仕組みそのものをより誠実なものにアップデートしたいんだね。

李: 人が生きる上で決断することは色々ありますけど、住まいや仕事といった人生の岐路における重い決断を、技術によって少しでも価値ある形でサポートしたい。そしてサポートできる数が大きければ大きいほど、私は社会が「いい状態」に近づけていると感じますし、付随して知的好奇心も満たされます。

高い評価の先で見えてきた「裁量の質」

野村: 李さんはこれまで、他の様々な企業からも高い評価を受けてきたよね。転職という選択肢も十分にあったはず。それでもリクルートグループに留まり、今の責任ある立場を引き受けたのはなぜなの?

李: 「裁量の質」が決定的に違うと感じたからでしょうか。規模の大きい企業では、役割が細かく分割されることも多いです。一方でリクルートグループでは、本質的な課題解決のためなら職種の境界を超えて動くことが推奨される。この「制約の少なさ」は、エンジニアリングを事業の武器として使いたい立場にとっては、何物にも代えがたい魅力です。

野村: 質の異なる裁量の大きさや、それを通じて自分が社会に与えられるインパクトを選んだ、ということだね。

李: 今の職場でこそできる仕事の内容や裁量の大きさに魅力を感じていますし、加えてモチベーションが高くエネルギーがある人が多いのもポイントですね。

自由の定義:道を切り拓き、付随するプロセスまでを自らつくる

野村: そういえば李さんって、昔から「スペシャリストかマネジメントか、どっちの道に行くの?」って訊くと当たり前のように「両方」って答えるような、ある意味で恐れ知らずなタイプだったよね(笑)。

李: そのまとめ方だと、すごく欲張りな人みたいですね(笑)。‍でも、自分がどんな仕事をするか、自分で全体像が見えた方がいいし、その権限は欲しいじゃないですか。でも同時に、技術もちゃんと勉強して、自分がやりたいことは自分で見つけていきたい。だから「両方」なんですよ。

野村: そういえば最近の若手エンジニアの中には、「組織が整ってきた分、自分で決められる範囲が狭まったように感じる」という戸惑う声もあるけれど、一般的なセオリーに囚われずキャリアを進めてきた李さんはどう思う?

李: 若手の皆さんがそう感じる背景も理解できます。組織が大きくなれば、守るべきルールや標準的なプロセスが増えて役割が細分化されるのは自然なことだし。ただ、視点を少し変えれば、もっと自由になれるはずだとも思うんですよね。

野村: 自由になれる、とは?

李: リクルートグループにおいて「これをやりたい」と言った時に、「あなたは専門職だから、ビジネスの企画には関わらないでください」と拒絶されることはまずない。もし役割の境界が壁になっていると感じるなら、その境界を超えて、領域を広げていくことができる。私はデータ担当として入社したけれど、企画や開発プロセスそのものにも入り込んできましたから。

境界を超える若手の挑戦と、お膳立てのないカオスを動かした10年前の記憶

野村: 実際最近IRTでも、そうやって若手が自ら境界を突破して形にした「ワクワクBQ解析くん」という素晴らしい事例があったよね。

李: PdMやエンジニアの若手メンバー3人が自発的に作った社内向けアプリケーションですね。最初は「自分たちのちょっとした課題感を解決したい」という目的で、Slack上で手軽にデータ解析を始められる仕組みとして作り始めたものが 、組織外にどんどん伝わって「これめちゃくちゃ便利じゃん、他組織にも広く展開しよう」って話になったんです。

野村: 自分たちだけで使う分には簡単だけど、全面展開となると一気にハードルが上がる。

李: たくさんの人が使うとなると性能やセキュリティなどいろいろな話が出てくるし、本質と関係ない形式的なプロセスにも直面します。開発の過程でハプニングに遭遇して、コストが跳ね上がりかけたりもしましたし(笑) 。そこで普通なら「面倒なインフラ調整やセキュリティ審査は他の部署にやってほしい」ってなりがちなところですが、彼らは「これを使えば全体の生産性が絶対に向上する」って言って、自分たちで始めたことですし最後までやり切ったんです 。結果、IRT社内で賞を受賞するほどの案件になりました。

野村: 「やりたいこと」を実現するためには、必ずそれに付随する「整えなければならない地道な周辺業務」がセットでついてくる。そこを誰かがやってくれるのを待つのではない。周りへの配慮や調整を含めて自ら設計しに行くことで、初めて本当の「自由」と「権限」が手に入る、というお手本だね。

李: 本当にそう。もし「自分に権限がない」ともどかしさを感じているなら、マネジメント層や関係者が何を気にしているのかを深く理解して、その懸念を払拭するプランを自ら示してみるのがいいかもしれません。そこまでやり切る適応能力こそがプロの本当の力だと思いますし、私の立場としても、そういうボトムアップのチャレンジをする人をどんどん応援していきたいですね。

野村: 仕組みが整った今の環境だから挑戦しづらいなんてことはないよね。なんなら、10年くらい前に李さんが中心になって立ち上げた『SUUMO』賃貸領域の「おすすめ順」のプロジェクトも、今ほどデータ活用の基盤や開発プロセスが整っていたわけではなく、関係者と一つひとつ整理しながら進めていった取り組みだったよね。

李: 当時を思えば、今はIRTをはじめ、グループ全体の開発組織が「良いチャレンジならどんどんやろう」という環境ですからね。10年前の話を引き合いに出すと、その頃の『SUUMO』賃貸の物件一覧は、基本的に価格など分かりやすい条件を軸にした表示が中心でした。 それ自体はシンプルで分かりやすいんですけど、カスタマーの体験として大きな課題を抱えていたんです。

たとえば、東京駅の近くで働いている人が「東京駅」と検索したとするじゃないですか。そうすると、家賃が一番安いという理由だけで、東京駅から徒歩47分もかかる千葉県の物件が検索結果の一番上に出てきたりしてたんですね。 これって、利便性や個人のニーズを考えたら、明らかに適切な選択肢が届いていない状況。 だからもっとデータや機械学習のモデルを活用して、カスタマーにとって本当に価値のある賢い検索、「おすすめ順」にした方がいいよね、ということで動き出しました。当時はまだデータ組織が管轄するシステムではなかったんですけどね。

野村: 今でこそ機械学習の導入は当たり前だけど、当時はインフラも開発プロセスも今ほど整備されていなかったから、本当に誰もお膳立てしてくれなかったよね。

李: モデルのところだけ考えていればいいなんて状況、全然なくて。それこそあちこちの部署の皆さんに話を聞きに行って、どうしたらこれが実現できるかを地道にすり合わせ、説得していきました。「何百万件もの物件に対して、毎回リアルタイムで機械学習のモデルを計算させるなんて無理だ」「そんな重い処理で検索エンジンを叩くなんて」って、他部署からたくさん意見をもらいましたし。

野村: 当時の開発部署の責任者のところにも直談判しに行ったよね(笑) 。

李: 行った行った(笑)。そこで諦めるんじゃなくて、「これとりあえず何百万件もの物件に一括で計算させるのは無理だから、こういうふうに先に計算対象を絞り込んだらいけるんじゃないか」って代替案を、関係者の皆さんとやり取りしながら一緒に作っていったんです。機械学習のモデルが落ちた時のフォールバック(代替挙動)も含めて、運用の細かい詳細まで熱意を持ってコミットしていったら、関係者の皆さんもだんだん「それなら一緒にやろう」って協力してくれるようになったんですよ。そうしてようやくリリースできました。

データ組織に閉じこもるんじゃなくて、構築するエンジニアの方も巻き込んで、自分たちで事業企画と対峙してフロントに立つ。ハードルは高かったですけど、本当にユーザーの価値になるものなら自由にやれる、というリクルートの根底にあるカルチャーは、今も昔も変わっていません。

「中身」を知らなければ大方針は決められない。 息をするように技術を追う

野村: 昔はボトムアップで「これやりたい!」って周囲を説得して回っていた李さんが、今は自分が技術をキャッチアップして、トップダウンで「この技術でプロダクトをこう改善すべきだ」って提示して、チームを巻き込んでいける。立場は変わったけれど、やってることは地続きだし、何よりすごく楽しそうだよね。 李さんは今でも、多忙な役員業務の合間を縫って最新の論文を読み、自分でコードを書くことも欠かさない。その情熱はどこから来てるの?

李: 楽しいから、というのが一番ですが、やらないといけないことでもあると思います。組織のトップに立つなら、現場に近いところを常に残した方がいいと思っていて。 でないと、自分の過去の成功体験に引きずられて、現実と乖離した歪んだ組織になっちゃいますから。

野村: 技術の今を知らなければ、組織の進むべき未来を正しく描けない、ということだね。

李: はい。私たちはプラットフォームやプロダクトの進化を目指しているわけで、そのためにSOTA(State of the Art) 、つまり現時点での最高水準を追いかけるのが基本だと思います。論文を読んだり自分で手を動かして試すのも、当たり前にやっていくべきことだと考えています。

2024年の初めにGeminiのモデルが出たばかりの頃は、すぐさまGoogle社のチームと連絡を取ってモデルを触り始めました。 それで RLHF(人間からのフィードバックによる強化学習) を使った、より精度の高い機能の検証プロジェクト を立ち上げました。これは「私が発案して、私が実装する」という、極めて省エネな体制でやってましたね。

野村: 役員自らがそこまで手を動かして最先端の技術スタックに触れていたことが、その後の大きな意思決定に活きたわけだ。

李: その後、レコメンドシステムで「オンラインテストの効果は出ているけれど、カスタマーの声を見ると品質が本当に上がっているか分からない」という課題に直面したんです。その時に、技術を自分でずっと触っていたからこそ、「この方法ならすぐできそう」っていう感覚が分かって、チームを組んで2週間ほどで品質のモニタリングにAIを導入する大方針をパッと決められました。

野村: 驚くほどのスピード感で、システム構築へと動かすことができたんだよね。

李: 事前にすべてを完全に予知するのは無理ですからね。 だからこそリーダーであっても、自分で技術に触れながら方向性を見定めなきゃいけない。 今はシリコンバレーでもCTOクラスが現場のメンバーとして手を動かすようなケースが増えています。車の運転だけするなら、仕組みを知らなくても走れますが、私たちは単なる運転手じゃなく「いい運転手」にならなきゃいけない。技術の中身を知らないと設計ができないし、どんな立場の人もちゃんとものづくりの現場に触れた方がいいというのがトレンドだと思います。

野村: 技術を追いかけて、自らアップデートを重ねる姿勢そのものが、機会を広げることにもつながっているんだね。

李: 私にとっては、今が一番楽しい時期だなと思っています。 もちろん全てがうまくいくわけではないけど(笑)、中身をちゃんと知っていないと、いざという時の精緻な設計や判断はできない。どんな立場であっても最新の知見を常に取り入れ、役立てられる存在でありたいですね。

編集後記:技術であらゆる「機会」を広げたい方へ

今回の対談で見えてきたのは、「本当にユーザーの価値になることなら、自由に挑戦できる」というリクルートの変わらないカルチャーです。

そして役員という立場になっても常に最新の技術を追い続け組織をリードしていく李のような存在が、データ組織の挑戦を支えています。

技術という武器を手に、人々の選択を豊かなものにし、機会損失のない未来をつくる。そんな当事者意識を持つ方を、私たちは心から歓迎します。

藤田 絵理

広報

藤田 絵理

技術広報、プロダクト開発組織向けのインナーコミュニケーションを担当しています。